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【 縷々嫋々 】

 

同じ場所に立ち、同じ方向を向いていても、人によって見えているものが異なることがあります。ある人は花に目を留め、別の人はその背後に広がる風景に気づくように、視点の選択はその人の経験や興味、考え方を映し出します。

 

本シリーズでは、秋冬に咲く桜を被写体に選びました。まばらに花をつけるその木々は、春の華やかさとは異なり、しなやかさと厳かさを併せ持つ美しさを湛えています。背景には紅葉した葉の深い赤が広がり、普段は気づきにくい色彩の対比が現れます。写真では桜の一部分にフォーカスを当て、枝花を大きくぼかし、奥の色も意識することで、画面全体に流動的な動きと多層的な構図を作り出しました。

 

写真におけるピントの選択は、人生における選択にも通じます。何を明瞭にし、何を曖昧にするのか。その選択は、私たちが何に意義を見出し、どのような世界を構築するのかを象徴しています。ぼかされた部分は単なる視覚的効果ではなく、“見えすぎる”現代社会において、あえて曖昧さを受け入れる重要性を表しているように感じます。このぼかしぼんやりと見ることは、決して”見ない”ことではありません。意識的に不確かさを残し、そこに新たな価値を見出す行為です。そして焦点をどこに合わせるかは、自身の意思を示す行為でもあります。明瞭な部分に対する意識的な選択が、自分の軸となる価値観を浮かび上がらせるのです。

 

この作品は、「視点の選択と曖昧さの価値」をテーマにしています。桜と紅葉が織り成す景色のように、どこに焦点を当てるかで、世界は違った姿を見せます。カメラを使ううえで自然な行為ですが、ピントを操作するということは、何を大切にし、何をぼかして見るかという問いかけでもあります。このシリーズが、「焦点の選択」を考えるきっかけとなり、視点を変えることで見える新たな魅力や美を感じていただければ嬉しいです。

Dec. 2024