Oct. 2021
【 大気の窓は開いている 】
「見える」とは人の目を通して「見る」ことだろうか。もし、人間の視覚を超えた感覚を借りることができたなら、世界はどのように映るのだろうか。
本作では、カメラのフィルターを改造し、通常カットされる赤外線をあえて取り込むことで、人の目には見えない光の領域を可視化した。赤外線を反射する草木は輝くように明るくなり、青空は赤外線を含まないために深く濃い色へと変化する。そして、処理し過ぎない色かぶりが、独特の赤みを帯びた仕上がりを生み出している。
人の肌や動物の模様、植物の葉緑素から造形、水面や水中、それから日常の風景まで、さまざまな光景を赤外線カメラで撮影した。それらは一見すると私の見慣れた世界と変わらないように思えるかもしれない。しかし、通常の可視光では捉えきれない情報がそこには宿っているだろう。
思いの外、この世界は見えないものの方が多い。普段目にしているものの中に不可視の光が無数に存在している。この写真シリーズは、人間の知覚の枠を少しずらすことで、単に物の表層を写すのではなく、より深い世界を感じ取るための試みである。